<学生デレヴュー2006出展案>
課題 : 卒業設計・課題設計・コンペ案・何でも可。それらが同じ土俵で審査される。(ユニクロ・クリエイティブアワード2006を出展)
題名 : 誘惑するシャツ
本文 :
店頭でディスプレイされたTシャツは、どのような点から選ばれるのでしょうか?
ディスプレイされている状態は客体で、視認されやすい状態ですが、着て自分を包むものへと主体化されることで、皮膚のように視認され難いものになります。見て面白かったTシャツは、自分が見ることが困難なものになってしまうのです。
このことから、視認されることによる効果だけでは無く、それが自体が何かアクティビティを誘発するものであることが、面白いものを考える上で重要ではないかと考え、「触れさせることのできるTシャツ」=迷路を全面にプリントしたTシャツをつくろう考えました。
他人が着ているTシャツを触れるような状況は、特別な素材を用いている時か、ゴミが付いている時、愛撫する時くらいであるように思います。スキンシップは大変有効なコミュニケーションの手段であり、そこから始まるアクティビティは面白いのではないかと考えています。
面白いということ・アクティビティを誘発するためのアイデアが先行した状況で、地と線・カラーのスタディから入っていきました。
与条件である、Tシャツの元ボディのカタチ・カラーバリエーションの選択から自ずと決定されるようなパラメーターも有りましたが、自由度の高いデザインを決定していく作業は困難なものでした。
結局何か感覚的なアートに向かいそうな中で、自由ということについての回答を模索していると、作る側の自由と着る側の自由、2つの自由があることに気が付きました。
機能が無いものの場合、作る側にとって自由なものは多いかと思いますが、それが着る側にとっては不自由なものになっている状況も少なくないように思いました。派手すぎるデザインでは着るシーンが限られてしまうように思います。
そこで、面白いという機能を盛り込むものの、それが主張してしまって自由な着こなしができなくなってしまわないように注意しながら、迷路が目立たないデザインに取り組むこととしました。
<各パラメーターの決定基準>
迷路の複雑さ・・・適度に複雑なものを目指す。簡単な迷路では触れずに目で追って解けるため。
線の引き方・・・グリッドをベースにした線引き。迷路を目立たなくするため。
線を引くグリッドの間隔・・・指でなぞることのできる太さにすることを検討して2cmの幅とした。複雑な迷路にするため。
線の角度・・・ベースのグリッドの角度を0°。肩・脇腹の位置での迷路の連続性を確保するため。
線の色&地の色のコントラスト・・・近いものとする。迷路を目立たなくするため。
SとGの文字の位置・・・ごく一般的なワンポイントの位置に配置。文字を目立たなくするため。
線の色&地の色の色相・明るさ・・・濃紺(与条件から決定)。指でなぞることによる汚れが目立たないようにするため。
SとGの文字の色・・・白。地の色と強いコントラストによって迷路が消えるようにするため。
タイトル・・・正面から見た時はSのみ、背後から見た時はGのみが見えている状態(機能を視覚的に消そうとしている状態)から、また、退いて見た時に迷路が消えてSとGの文字だけが浮かび上がる様を表現して。
いつでもどこでも遊びを提供することができるTシャツは、いつでもどこでも着られる自由な、(機能を自然な状態で保存している)誘惑するシャツとなります。
審査員の先生方の講評(簡略化して) :
審査員の方々にはそれぞれ以下のようなコメントを頂きました。
・面白いんだけどこの中では(卒計の出展が多いこのコンペの中では)どうかな。
・触られちゃうわけ?面白いね。
・触る=楽しいがちょっとわからないな。
・ユニクロにこんな変なものを求めないし。全くわからない。
・子供が着るならアリそうだからちゃんと着る対象まで考えてプレゼンした方が良かったかも。
・風景としての意識も含めるなら、どのような空間で提示されるべきかというところまで踏み込んで欲しかった。
・(卒計の出展が多いこのコンペの中では)圧倒的にキワモノなワケだから、もっと触りたい!って強烈に思わせるようなものであって欲しかったな。例えばエポックとか違う素材で作ってやるとか。
一言 :
ユニクロの審査では恐らくアート色の強いものが評価される傾向にあったのだろうということと、「空間探索研究」において空間の中における人の現れ方に対して最近意識していたということから、今回は建築家の視点から評価してもらおうと考えてこの案を出展しました。準備不足のためそこまでは踏み込めませんでしたが、(視点場の位置が変わることによってアフォーダンスの働き方が異なるこのシャツが)どのように空間と関わるのか・どのような空間ならどのような効果があるのか、といった点まで考えられると面白かったのではないかと思います(それは今後の課題とします)。
また、ユニクロのコンペ時のフォーマットのままで制作(業者では制作困難ということもあって、マスキング+エアブラシによって自力で制作した)・出展したのですが、指摘されたように更に発展させて違う素材で考えたりしてみても良かったかも知れません。